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中東のことわざを読み解く―その4

  • 英語
  • エッセイ
公開日:2008年10月03日
中東のことわざを読み解く―その4

入る時はムハンマドさまで,出てくる時はビシュルさま(アラブ)イスラム社会には,「ハンマーム」と呼ばれる公衆浴場がある。日本で言えば銭湯。庶民にとって一日の汗を流す「癒し」の空間であるが,「ハンバーム」には,それに「情報交換」という大切な機能が加わる。通常は,表通りからひっこんだ路地裏に,噴水盤とベンチを備えた休憩室があり,その奥に脱衣室,冷浴室,温浴室,熱浴室の四室からなる浴場がある。これは古代ローマ帝国の浴場の様式。それをそっくりアラブ社会が引き継いだ。女性専用もあり,ご婦人方には愉しいおしゃべりと解放の場である。ところで,その愉しい「アンマーム」にも,悩みが一つ。脱衣所の衣服や靴の盗難である。湯に入る時はムハンマドさまの極楽の気分であったのに,出てくる時はビシュルさま。ムハンマドは言わずと知れたイスラムの預言者。ビシュルさまとは,有名な裸足の聖者。自分にふりかかった災難を二人の超有名人にたくして笑い飛ばしている。イスラム教徒の軽妙洒脱な笑い。

宮城学院女子大学名誉教授・宗教人類学 山形孝夫

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