[本文より]
五月、能登国和倉温泉和歌崎館及加賀国金沢市柿木畠藤屋に遊ばる、其折の御便りに、絶えて久しくゆかしくなつかしき人にあひて思はず落涙いたし候。とあり。鏡花の死後、鏡花の絵筆を持つ弟子ともいうべき装丁家・小村雪岱によって加筆された「泉鏡花年譜」(岩波書店『泉鏡花全集』第一巻所収)の昭和4年の項には、右のような記載がある。当時、新聞連載小説の取材のため能登の和倉温泉を訪れた後、郷里金沢へ足をのばした鏡花から雪岱のもとに便りが届いたとするものだが、文中にある鏡花を落涙させた〈絶えて久しくゆかしくなつかしき人〉であろうとされているのが、鏡花の初恋の女性といわれる湯浅しげである。
ニュ-サポ-ト高校国語Vol.9 東京書籍2008年4月作成