[本文より] 編集局から「NHK大河ドラマ『元禄繚乱』をめぐって一文を書け」とのご要望があった。ほとんど見たことがなかったので,昨夜慌ててチャンネルをあわせた。まだ「松の廊下」以前の元禄8年で,さしたる事件もなく,どこかで見たことのある美男・美女が,江戸や赤穂を舞台に,流暢な東京弁で熱演していた。着物や丁髷を除けば,現代物のドラマとどこが違うのかよく理解できず,教師や子どもを含む視聴者が,こうしたドラマから一定の江戸時代像を持つとしたら,恐ろしいとすら感じた。一年に及ぶ「大河ドラマ」の一断章を覗いただけだから,内容の批判はできないが,一言で言えば,江戸時代を舞台にした時代劇―江戸時代劇―を作れる時代は終焉した,というのが感想である。
東京大学教授 吉田伸之