[巻頭言]私にとっての教育と教育者
[本文より]
終戦の時,中学三年生だった私にとって,敗戦は自分のよって立つ世界観が,がらがら崩れおち,新しい世界観の模索が始まる混迷の時だった。勉強をさぼって詩人を気取ったり,演劇に熱中したり,学校や教師に反抗したりした。そんな扱いにくい生意気な子どもを,先生たちは暖かく受け入れ,優しく見守り,静かに指導してくれた。国語や古典,生物や英語への関心を触発してくれたのだった。当時の秋田中学は,よい学校だったにちがいない。すぐれた教師に恵まれたのは,偶然ではなく,やはり当時の社会一般の教師に対する高い評価と尊敬の念に裏づけられていたのだろう。
元国連事務次長 明石康