[本文より]
いま,教育基本法改正に向けての動きが活発化している。その一連の動きの中で,改正法案に「愛国心」をどう盛り込んでいくかがひとつの焦点とされている。おそらく,政権与党の政治家からは最近の若者たちが刹那的・享楽的に見えて,「日本国民としての自覚が足りないのでは?」という危惧があり,それを子どものころからきちんと教えておくべきだ,という考えから起こったことなのだろう。もっとも,彼らが抱いているであろうその危惧も,私などにはいかにも「政権与党の立場からすればきっとそう考えるだろう」というふうに見える。ものごとには,その渦中にいるからこそ見えてこないものもある。もっと広い視点から考えることが必要なのではないか?そんな中,与党は改正法案の中に〈教育の目的〉の項を設け,「日本の伝統・文化の尊重,郷土や国を愛する心と国際社会の一員としての意識の涵養」なる文言を盛り込もうとしている。しかし,“愛する”か“大切にする”かの表現をめぐって与党内部で対立があり,それは解消されていない。
作曲家 さえぐさしげあき 三枝成彰