[本文より]
初等中等教育から高等教育まで,今や教育論は誰の口の端にも上っている。よく言われるように,あらゆる人が教育については一端の評論家である。しかし,それは政治についての床屋談義とよく似ている。「日本の政治をよくするための方策とは何か」と聞かれて明瞭で断定的な回答が出てこないように,「日本の教育をよくするための方策」が蛇口をひねれば水のように出てくるとは,漠然とではあるが思っていない。議論によって何か解決策を見出すということよりも,しばしば議論することに意味があるように見える。
東京大学総長 佐々木毅