[はじめに]
私の古代エジプトの数体系や算数の計算法は,「シュタイナー学校の数学読本」による十進法が紹介されている単元からの知識だけであった。
しかし,このたび,エジプト史の研究者である「村治笙子」氏がパリのルーブル博物館で購入していただいた「MATHEMATICS IN THE TIME OF THE PHARAOHS」に触れることができた。この本はアカデミックに書かれた学術書で骨太な難解な部分も多数あり,残念ながら私の力の及ぶところはあまり多くはないが,解析できた項目は現代の数学に通じる不思議な因子を感じた。それは,古代エジプト人が確立した数の体系,商取引に使われたと思われる実用的な四則演算,ピラミッドや巨大宮殿の設計に応用されたか,あるいはそこから派生的に生まれたと思われる幾何学の体系,そして,興味深いのは数学のクイズや現代にも通じるパズル等々。
今から4千年前に書かれたといわれるリンド・パピルスはエジプト文明の長い歴史の中で,リンド・パピルス原典以前のエジプト数学を跡づけることはできない。しかし,おそらくは,私が学びつつある古代エジプト数学の巧みな体系は千年にもわたるゆっくりとした発展があったであろうと推測する。およそ5千年前からのエジプト人が徐々に確立していった数の面白い体系やユニークな四則演算,そして現代人にとっては意外な方向へ発展する分数の計算方法は,知的好奇心の旺盛な中学生や高校生にとって感動を与え,数学への更なる広がりを与えることは間違いないことだろう。
この研究集録の著述は,中高生の教材に利用することを考えて編集しました。私の独りよがりな解釈や勝手な推論で記述した部分にご意見やご感想をいただけましたら幸甚です。
海城中学・高等学校 木村直毅