[本文より]昨年,トム・クルーズ主演のハリウッド映画『ラスト・サムライ』が大ヒットした。共演した渡辺謙氏がアカデミー賞助演男優賞にノミネートされたことは大きく報じられたから,鑑賞された方も多いであろう。日本では,武士といえば斬り捨て御免などの特権を持つ封建時代の産物で,すでに忘れられた存在であった。ところがアメリカで,その武士の精神性が高く評価されたものだから,日本でもミニ武士道ブームが起こった。トム・クルーズも読んだとされる新渡戸稲造氏の『武士道』もベストセラーとなった。映画は,長期にわたる不況で自身を失っていた日本人に自信を与えてくれるものだったから,大ヒットしたのも理解できる。しかし,そうした武士道ブームが,一過性のものに終ってしまうとしたら残念である。というのは,武士という存在や武士道教育といったものは,ある意味で再評価されるべきだと思うからである。
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東京大学史料編纂所教授 山本博文