まず,現在のヨーロッパにとって「平和」とは一体何なのかを考えてみたいと思います。というのは,現在ヨーロッパとアメリカとの関係が,戦後最悪といわれる状態にあり,さまざまな議論がなされていますが,亀裂の根底には「平和」の理念に関して文明論的な相違があると思われるからです。例えば,いまアメリカでネオコンが大きな影響力をもっています。その代表的な論者は2003年に公刊した本のなかで,アメリカはホッブス的世界にいるのに対し,ヨーロッパはカント的世界の中におり,そのイデオロギー的な溝は深いと述べ,唯一の超大国アメリカがテロなどの世界秩序に対する脅威に武力で立ち向かう一方で,ヨーロッパは軍事的能力と意思を欠いていると指弾し,ヨーロッパが軍事力強化に目覚めない限りアメリカの時代は続くと批判しました。
東京大学大学院教授 高橋進