[特集 「言葉の力」を育てる教育]「言葉の力」を核にして
お茶の水女子大学副学長,発達心理学 内田伸子
教育情報-教室の窓Vol.20
東京書籍 2007年1月発行
[本文より]
「(前略)第二言語をよりよく習得するというのは,どれだけその言語の文化に向き合うかで決まるように思います。また,現地の学校に長くいる子どものほうが,日本語補習校で作る作文がうまい(文章力があり,内容がいい)という現象がありました。それは言語能力というものが,単に○○語の熟達ということだけでなく,文化を継承する努力によって自己の内面を耕すという人間に共通な性質をもっていて,第二言語と格闘している子どものほうがそういう能力が高いのだという気がしています。だからといって,日本で第二言語を早期に教えるべきだというのでは決してありません。そうではなく,日本でなされている日本語教育がいささか頼りないと思うのです。帰国後に受けた中学,高校の授業では,自分自身の変革を迫られたり,中身をしぼり出させられたりするような体験には不幸にして出会えませんでした。(後略)
これは,3歳10か月から15歳まで旧西ドイツに滞在した帰国子女のレポートの一部である。11年半ドイツで暮らしても,「とうとう一度もドイツ語を自由に使えたことはなく,高学年になるほどその不自由さは増しました」という書き出しで始まる彼女の文章は,日本の国語教育についての痛烈な批判で終わっている。
お茶の水女子大学副学長,発達心理学 内田伸子