[本文より]Three Concentric Circles of World Englishes(3)
10余年前,勤務先の同僚とふたり,イングランドやスコットランドを旅行したときのことである。格別きちんとした日程もくまずに車を走らせるという気ままな旅だった。ある日,スコットランドの小さな町に泊まった。夕食前の一杯というわけで,一軒のパブに入ったら,入り口付近にひとり陣取っていた30歳代の男性が親しげな笑顔を送ってよこした。こんなことはイギリスではめずらしい。時間が早いせいか,ほかに客も少なくガランとしている。そのうちにいっしょに飲まないかと彼が誘ってきた。断る理由もないので応ずることにした。話をしているうちに,彼は土地の人ではなく,オーストラリアから働きに来ているということがわかった。しかし,もうすぐ帰国するという。その主な理由はことばがよく通じなくて生活しにくいからだそうだ。スコットランドとオーストラリアでは,方言に違いはあるにせよ,同じ英語である。通じないはずはないではないかと言っても,彼は頑固にそれを否定する。通じないのは通じないのだと。そしてまたそれに反論したりしているうちに時間が過ぎ,夕食を食べ損なったことを思い出す。現在はどうか知らないが,その当時はイングランドとはちがい,スコットランドのパブでは食事はできなかった。あわててレストランに駆け込んだが,すでに時間切れでことわられてしまった。
山形大学名誉教授 金山等