【本文より】前々々節で今道哲学のキーワードである生圏倫理を,前々節で自己言及性が複雑系の構成原理でもあり教育の原理でもあることを考察し,前節で複雑系科学の手法を論じたが複雑系の動態を多次元空間上に記述する話から易の記述に脱線してしまった。
一般に,N次元の自由度を持った複雑な運動は2N+1次元の空間にデータを埋め込んで,2N+1次元状態の実現点の分布として記述しなければならない。何故ならば,糸(1次元)の上の蟻の位置を記述するには糸の端から蟻までの距離を知ればよいが,糸がこんがらがっている場合は3つの座標値(3次元)が必要だからである。2N+1次元での分布を解析して系の法則性を導き,或は,状態の時間変化を状態を記述する変数の関数として表す力学系を構築することが複雑系科学の目的である。
東京大学名誉教授 海野和三郎