【本文より】前々節で,今道哲学のキーワードである生圏倫理を取り上げ,「同一性の自己塑性」が倫理の普遍性の由来であることを論じ,前節でこの自己言及性が複雑系の構成原理でもあり,教育の原理でもあることを考察した。
エネルギーや環境問題で危機的状況にある人類の将来に向けて,この生圏の理念を実現するためには,生圏と同じ構成をもつ複雑系科学の手法が有効であろう。その手法は,複雑系の実体を記述する多次元空間を構成することと,その空間上に実現した系の構造を解析して,その系を成り立たせている法則性を導くことである。人間という複雑系を例にして,まず多次元空間について簡単に述べることにしよう。
東京大学名誉教授 海野和三郎