【本文より】 「力」はあまりにも身近かにありすぎて,私たちがそれを意識する事はほとんどありません。むしろあらゆる場面で我々の都合がいいように制御してしまうことが,原始の時代から必要不可欠であったわけで,日常これを強く意識しなくても生活が出来るようにすべての生活環境(道具や構造物の形状など)が整えられてしまっているのが実際のところです。しかしながら,物理の教育課程では,力の把握なしに,運動方程式にも,運動量の話にも進めないわけですから,この「生活の中ですでに充分にこなされている,征服を大きな新たなる課題とはしない現象」に改めて意識を向けさせることが必要となってくるわけです。そしてここに挙げた矛盾こそ,「力」関連の単元がしばしば生徒の感動を導き出せない,受験校にあっては「数学的」な,そうでない学校の生徒にとっては「無意味」で最初のつまずきとなる,淡泊な,つまらない,理科らしくない授業が展開する一番大きな原因になっているのではないでしょうか?ところが視点を変えて考えると,日常に埋もれているからこそ新たなる発見があれば感動もひとしおになってくるわけで,適切な実験をたくさん体験させることによって,生徒たちを理科に引き込む手段にも変わりうる可能性がここに潜んでいます。これから紹介するのは,私が授業で行ったり見せている実験やVTRの例で,多くの先生方は,すでに様々な実験書や,内外の博物館・科学館より,ご存じのものだと思います。しかし,ちょうど私のように,学校が大量に新設され,高校進学率が100%近くになり,新設後間もない学校で若手教諭ばかりで授業に取り組んできた,これからいよいよ若手中堅どころとなりつつある教員たちには,鈴木先生(筑波大付属)がご指摘になるように,熟練教員からの日常的教科指導の様々なノウハウを学んでくることが出来なかった方たちもたくさんおられることと思います。筆者は,ここに示すいくつかの例で,是非このような先生方と一緒になって,生徒たちを歓ばせてあげられればと思います。
神奈川県立大船工業技術高等学校 金子英樹