鈴虫二
詞書第二面(第三紙・第四紙)
五島美術館所蔵
平安時代後期 12世紀
大きさ:縦21.8cm横46.2cm
掲載期間:2001年1月~2003年12月
原文:
人々の御車,次第のまま引きなほし,御前の人々立ちこみて,しづかなりつる御あそび,まぎれて,いで給ひぬ。院の御車に,みこたてまつり,大将,左衛門督,藤宰相など,おはしけるかぎり,みな,まゐり給ふ。直衣にて,かろらかなる御よそひどもなれば,下襲ばかりたてまつりくはへて,月ややさしあがり,更けぬる空おもしろきに,わかき人々,笛などわざとなく吹かせ給ひなどして,しのびたる御参りのさまなり。うるはしかるべき折ふしは,所せくよだけき儀式をつくして,かたみに御覧ぜられ給ひ,又,いにしへのただ人ざまにおぼしかへりて,今夜,かるがるしきやうに,ふと,かく参り給へれば,いといたうおどろき,待ちよろこびきこえ給ふ。ねびととのひ給へる御かたち,いよいよこと物ならず。いみじき御さかりの世を,御心とおぼしすてて,しづかなる御有様に,あはれすくなからず。
五島美術館所