御法
詞書第三面(第五紙)
五島美術館所蔵
平安時代後期 12世紀
大きさ:縦21.8cm横23.6cm
掲載期間:2001年1月~2003年12月
原文:
と,きこえかはし給ふ。御かたちども,あらまほしく,見るかひあるにつけても,「かくて,千年を過ぐすわざもがな」と,おぼさるれど,心にかなはぬことなれば,かけとめむ方なきぞ,悲しかりける。 「いまは,わたらせ給ひね。乱り心ち,いと,苦しくなり侍りぬ。いふかひなくなりにける程と言ひながら,いと,なめげに侍りや」とて,御几帳ひき寄せて,臥し給へるさまの,常よりも,いと,頼もしげなく見え給へば, 「いかに思さるるにか」とて,宮は,御手をとらへたてまつりて,泣く泣く,見たてまつり給ふに,まことに,消えゆく露の心地して,限りに見え給へば,御誦経の使ども,かずも知らず,たち騒ぎたり。さきざきも,かくて生き出で給ふをりにならひて,「御物の怪」と,うたがひ給ひて,夜一夜,さまざまのことを,し尽くさせ給へど,かひもなく,明け果つるほどに,消えはて給ひぬ。
五島美術館所