[文学のある風景]天草・大江の吉井勇歌碑-『五足の靴』の旅の語り部として-
ニュ-サポ-ト高校国語Vol.8(2007年秋号)
[本文より]
天草・大江の里に一基の歌碑がある。場所は「大江天主堂」(熊本県天草郡天草町大江一七八二)のすぐ前である。碑面の一首は, ともにゆきし 友みなあらず 我一人 老いてまた踏む 天草の島(碑面も五行分かち書き)である。吉井勇の作になる,多くの含蓄を伴う一首である。歌人・吉井勇は昭和27(一九五二)年五月二十八日,長崎港発茂木港経由の汽船で天草へ着到した。天草への旧遊から生まれた自詠の一首の碑がその天草の地に建立されたのを自ら視認する為の旅であった。その一首こそは, 白秋とともに泊まりし天草の 大江の宿は伴天連の宿 である。知る人ぞ知る,『五足の靴』の旅から生まれた名作である。