ニューサポート高校「国語」vol.34(2020年秋号)より。いうまでもなくコロナ禍がもたらした最大の災いは、 「集うこと」の不可能性である。 「空気の共有」に対する、全世界の人々の忌避感である。わたしにしても、時折人と会うとき、これまでとは違って半無意識に顔をそむけ、距離をとっている。仲の良い人に対しては、思わず「申し訳ない……」と思ってしまう。ふつうだったらこれは「何かあったの?ずいぶんよそよそしいけれど……」といぶかられる距離だ。そしてこの自己隔離によって最も打撃を受ける芸術ジャンルの一つが音楽にほかならない。
京都大学人文科学研究所教授 岡田暁生