ある高校の保健体育教員が卒業生に会った時に、「体育で学んだことが今、どのように役に立っているか」を尋ねたそうである。その卒業生は、「特に何も役に立っていないと思う」と回答したということであった。この回答を聞いて、その教員はとてもガッカリしたと同時に、自分自身の指導を顧みて、それを契機に保健体育の授業改革を考え始めたということであった。教師が目指していることと、学習者が学んでいることにズレがある可能性があるといってもよいだろう。「指導のカリキュラム」と「学びのカリキュラム」が、同一の出来事として共有されながら、意味づけを異にするというダブルバインドな世界の中に現実の体育カリキュラムが存在しているといってもよい。本稿は、このような状況を打開し、新時代のカリキュラム・マネジメントを真正に行う上で、その手がかりを提示していく。
東京学芸大学准教授 鈴木直樹