[本文より] 日本全国で見ることのできる野草,それも誰にでもまちがいなく同定できる野草というと,春ならばナズナだろうか。ペンペン草の名の方が通りがいいかもしれない。細かい白い花はどんどん散っていき,特徴的な三角形の実を順次つけてゆく。アブラナ科特有の形をした花には,他に似たものもあるが,この独特の形の実は,見まちがうことはないだろう。このナズナ,北半球に広く分布していて,中国はもちろん,ネパールを経てヨーロッパ,アメリカにも生えている。だから国内はおろか外国でも,ナズナにそっくりの植物を見かけたら,まずナズナか,そのごく近縁な二倍体種と考えてまちがいない。
となると狭い日本,国内中どこで観察してもナズナは同じ姿かというと,これが決してそうではない。
東京大学分子細胞生物学研究所 塚谷裕一