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- 撮影年月日 2017年11月28日 他
- 撮影場所 愛知県 豊橋市
応募者解説
イカの体表には発光細菌が住み着いており,適当な環境で細菌を増殖させること
で非常に明るく鮮やかな発光の様子が観察できる。今回は学校や家庭で実際に実施
できるような観察を考案し,一連の流れを写真にまとめた。
この観察では身近な食材が光るという予想外の現象と,光や色そのものの美しさに
よって生徒が興味・関心を持つことが期待される。また基本的な細菌培養の技能を
身につけると共に,イカの生態や発光細菌の性質を考察することができるよう,様
々な形態での観察を設定した。
なおこの観察の特徴の一つは身近な食材と道具で行えるという点である。実際に
今回の写真中ではあえて理科の実験器具を使わずに,可能な限りキッチンにあるも
ので代用している。「理科は特別な道具を使う敷居の高いもの」という印象を持つ
生徒が少なからずいるため,「生活の中で行える身近な理科」というテーマも含め
ながら観察を組み立て,写真を撮影した。
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スーパーで購入したヤリイカを3%濃度の食塩水をはったトレーに載せ一晩放置する
。その間はイカの体表が乾燥しないよう,トレーにラップをかけておく。気温が17
度前後の,秋や冬の時期に実施する。
2
一晩たつとイカの体表の発光細菌が増殖し,光を放ちはじめる。この光は非常に強
く,色はライトブルーである。
3
生物にとって体色などの外見は非常に重要な意味合いをもつ。たとえばイカの背側
が黒く,腹側が白いのは外敵に対するカモフラージュであると言われている。海中
において,イカを上から見たときには海底の闇に紛れ,下から見たときには海面か
らさす光に紛れて見えるよう体色が分かれている。
4
一方で発光細菌はイカにとってどのように機能しているのだろうか。観察から発光
細菌はイカの腹側に多く生息していることが分かる。また発光が意味を持つのは夜
間であると予想できる。このことから夜の海においてイカを下から見たときに星明
かりに紛れて見えるよう発光細菌を体表に持っているのではないかと考えられる。
イカは外敵から身を守るために,日中は体色を利用し,夜間は発光細菌を利用して
いるのである。
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発光細菌の発する光は非常に強く,薄明かりの中でなら十分に確認できる。先の尖
った爪楊枝などで発光細菌を採取し,液体培地を用いて培養していく。
6
液体培地はイカの煮汁に3%の食塩を加えたものを使用する。これは海中でのイカの
体表の環境を再現している。
発光細菌を接種し一晩たつと液体培地が濁り発光がはじまる。
7
静置した状態では液体培地の液面のみが強く発光する。発光細菌は液体培地全体に
増殖しているはずだが,なぜ液面しか光らないのだろうか。
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容器をよく振り空気を混ぜ込むと液体培地全体が発光する様子を観察できる。この
ことから発光細菌の発光には空気が必要であると考えられる。
発光細菌は酸素を吸収し二酸化炭素を放出する過程で発光を行うため,より具体的
には空気中の酸素を必要とする。
9
次に寒天培地を用いて発光細菌の培養をおこなう。熱した液体培地に寒天を加え,
皿に注いで培地を形成する。ここに発光細菌を含む液体培地を,線を描くように塗
布していく。
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一晩たつと寒天培地上に発光細菌が増殖し,塗布した部分が発光をはじめる。発光
している部分をよく観察すると小さな点から構成されていることに気づく。この点
は1つの細菌が肉眼でも見えるほどに増殖したものであり,コロニーと呼ばれる。
改めてイカの体表で増殖した発光細菌の写真を見ると,寒天培地での培養と同様に
コロニーが形成されていたことに気づく。このコロニーの1つ1つが,元々はたっ
た1つの発光細菌だったのである。
【撮影について】
カメラ:Canon eos 60D
レンズ:Carl Zeiss Makro-Planar T*2/50
発光の美しさが写真で表現できるよう,有線リモコンと三脚を用いて手ブレしな
いよう気をつけて撮影しました。また準備をすれば何度でも再現できる実験なので
,一度で写真を撮りきろうとせず,何度も実験を行い納得できる写真素材を撮り溜
めていきました。
講評
科学では再現可能であることが重要であり,一連の実験観察を段取りよくとらえている点で優れた作品である。
個々の写真も魅力的に美しく撮影されており,科学の普及に貢献できる作品に仕上がっている。
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