主要各国の学力向上への取組みに焦点を当て,世界標準の学力モデルを読み解くことを試みた一書。各国では学力はどのように捉えられ,どのような教育が目指されているのか。教育の質的向上を促す各国のPISA型学力政策の取組みを,その基底となる学力観,学力モデル,コンピテンシーの次元にまで掘り下げて検証し,これからの日本の学力論議・学校改革の方向性を考える上での試金石になる。
まえがきから
 90年代後半から欧米の各国では,「知識基盤社会」と呼ばれる新しい社会像を共有化し,学校教育で習得されるべき知識・技能の見直しが図られてきました。学力の規定は,旧来の読・書・算及び教科の枠に縛られた知識から,社会生活で活用される実践的な能力を指すコンピテンシーの育成を目指す「新しい学力観」へと変化を遂げつつあります。これは,社会コンピテンシー,自己コンピテンシー,文化コンピテンシーなど,総合的かつ諸教科横断的な学力ファクターを包含するものです。このような能力は,学校における基礎教育を通して形成され,社会に出てからも自立的に学び続けるという生涯学習の発想と一致するものです。欧州諸国ではキー・コンピテンシーに関する報告書をまとめ,ヨーロッパ共通の学力標準を作成する動きがみられます。第3極のアジア2ヶ国においても,その評価は別として,新学力観へ移行させようとする動きがみられます。この流れはもはや逆戻りしそうもありません。
 こうした新しい学力観に基づく各国の論議は,その学力を形成する文化・社会経済的基盤にも分析のメスを入れています。学力は,授業という場で実施される直接的な教授・学習行為によってのみ形成されるものではないからです。家庭や学校の教育環境などに因るところが少なくなく,広い意味での学力格差の是正を教育課題に加えざるをえないことを,PISA調査の結果は物語っています。(中略)
 各国それぞれの視点からPISA調査など国際比較学力調査の結果の分析と受けとめ方を把握した上で,制度面での政策を含めた広い意味での学力向上策に焦点を当てつつ,そこでの議論の基盤になる学力観や学力モデルを読み解くことを本書では課題にします。学校教育の質的な保障や向上を図るための新たな教育システムに着目しつつ,各国で展開されている学力向上策の具体像に迫ることができればと考えています。
編著者紹介
原田信之[ハラダノブユキ]
1963年生まれ。岐阜大学教育学部学校教育講座准教授。博士(教育学)。ロータリー財団奨学生(1991‐92年オルデンブルク大学),ドイツ学術交流会(DAAD)客員研究員(1994年エッセン総合大学,2000‐01年ヒルデスハイム大学),オルデンブルク大学招聘客員教授(2004‐05年)などに研究滞在。

確かな学力と豊かな学力―各国教育改革の実態と学力モデル (単行本)